ルーツが生えてくる

『「声優のアイコ」懲役10年確定へ』(時事通信社

 

異名、肩書、二つ名。カッコいいですよね。「***の○○○」みたいな言い回しは気を引くのに効果的。マサラタウンのサトシでさえ、なんだか背負っているものが大きくて奥行きのある人間に聞こえます。あたかも同格の”の”であるような、誇大なイメージ。

声優のアイコは、意図せず声優という職業への偏見と関心を集めたことでしょう。

人は肩書で生きています。本音でも建前でも、肩書のない人間はいません。何も勤務先や職業、役職名だけではなく、住所や性別、年齢だって、勝手に背負っています。そこに責任を自覚することはないけれど。生きることは、責任を負うことだ。その責任を愉しむことができる人が大人だ。そして社会は、大人になることを強要する。肩書のない幽霊は、子供の特権。曖昧な存在であることが許される奇跡の期間が、現代では短すぎる。複雑怪奇な人生なのだから、もっと漠然としていて、悩ましいことがあって当然なのに、なかったことにして、無理やりに大人に仕立て上げられる。だったらいっそ、自分の思う名を名乗り、自分の背負いたいものを誇るのが一興。

 

マサラタウンのサトシは、その名を口にするたび、輪郭を持ち、大人になってゆく。