嫌い嫌いも数奇のうち。

嫌いだ、と相手に口にすれば、それは明確な対立になる。好きなことは好きと言えばいいが、嫌いなことは嫌いと言わないほうがいい、そんな使い分けた理解を自ずとする。言霊という概念に照らせばわかりやすいが、嫌いだと発現することで自己暗示にかかり、ついには対象物の悪い所を抽出する色眼鏡を開発してしまう。宗教は最高の善を見つける恰好の手段だ。なぜなら、日常の理屈を無視した暗示を受け入れる体制が整うからであり、現実を変えるより、眼鏡を変えるほうがよほど容易だからだ。”好き”の音韻にもまた、その力がある。そして加筆するなら、人間は複合物である。嫌いな要素が目立っていても、好きな要素が隠れている可能性がある。一旦レッテル張りをしたら、好きな要素に触れる機会を自分から閉ざすことにもなる。

ただ、ここで掌返しに近い意見を述べるが、好き嫌いははっきりさせた方がいい。好きという感情の根底には、自分にとって都合のいい要素が目立つ相手を認識した、という科学的現実があるはずで、翻って、嫌いの根底には、自分にとって不都合な要素を優秀なる経験則と本能が見つけ出した、という事実があるからだ。無論、つけ入る輩はそれを利用するわけだが、こと”嫌い”のベクトルから、”好き”を探し出す作業は非効率だろうし、効用最大化関数の導出を諦めるなら、背理法的な分析は無駄だ。

なお最高の自己暗示は、”嫌い”を”好き”に変えてしまうこと。

つまり、精神的自殺だ。

アカペラで笑う

カラオケにない曲はアカペラで歌います。発声に自信があるわけではなくて、歌いたいから歌います。ところで、社会人ってよく笑ってますよね。薄ら笑いに半笑い、苦笑いに愛想笑いに含み笑い。出場機会が増えるのは、目的論的な笑いばかり。面白いから笑うのではなく、笑うことを手段として、別のことを考えている。もしくは考えていないけれど、慣習的に行う。仕方がない。社交界における笑いは、敵意がないことを示す挨拶みたいなものであり、定期的にこれをしないと、コミュニティに入れてもらえないのだ。合言葉に似ている。笑い方も注意が必要で、同じタイミングで愛想笑いをしても、やれ笑い方が不自然だとか、声が大きいだとか、下品だとか、色々文句を付けられる。

これは喜怒哀楽その他感情にも当てはまる事例だけれど、どうにも笑いという動作が採用されるケースが多いので、結果社会人上級者は、常にニタニタ笑っている。最強の構えだ。きっと誰も批判できないでしょう。だって、笑顔の仮面を捨てた結果不利益を被ることについて、誰も責任をとれないのだから。

笑い”型”を忘れて笑え。

無理の理

自分で決めた限界は限界じゃないとしたら、無理というのが嘘つきの言葉なら、失敗こそが無理を教える唯一の母になる。しかし、その母と逢えるのは最初で最後になるかもしれないわけで、その子は結果論でしか無理がわからないなら、そんな危機察知能力の希薄な種族は生き残れないだろう。無理というのは、実に理性的な発見なのだ。意識の有無を問わず、思考して、試行して、できない理由を導出することなのだ。

確かに、やってみたらできた、ということはたくさんあるだろう。やって失敗して死んだ人は意見できないから、必然前者の声が大きくなる。でも、やってみてできた場合の効用と、やってしまって取り返しがつかなくなった場合の効用を比較衡量して取組を見直すことは、立派な選択ではなかろうか。石橋を叩いて渡らないのは本当に無意味な行為だろうか。石橋の叩き方が間違っていたかもしれない。なるほどリスクを取らねば前進しないというのは確かだ。しかし結局は結果論と程度問題。無理を説明できる人は、人生を前向きに生きている。ただ、進んではないだけだ。

無理っぽい、そんな直感を分析すると、無理を承知で、という孫も生まれる。

ホラー会4

 

怪談新耳袋 劇場版 [DVD]

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面白さ 7/10

怖さ       6/10

 

怪談新耳袋」は、本作以外にもたくさんのシリーズが存在しますが、本作に収録されているストーリーは比較的高水準で面白かった。ドッキリ系のネタが多いため、所謂正統派のジャパニーズホラーを味わいたい、という嗜好からは外れるものですが、ジャンクフード的な面白さがあり、各話メリハリを持って視聴できます。ホラーなのにギャグっぽい、そんな矛盾する演出も珍しくないですが、それも一興。Amazonのリンクにあるような気持ち悪い画像が突然出てくるわけですから、怖いに決まっている。ホラーシーンの大半が「呪怨」的な驚かせ方です。友人と一話ずつ感想を言い合うにはもってこいの作品ですね。

 

しかしこうしてホラー映画の紹介ブログと化したこのブログには向上心というか反骨心がありません。あるのは大嫌いな批評家の詭弁だけ。今日でホラー会は終わりです。祝、三日坊主。

シュレディンガーの招き猫

人生はたった一度。50代超えたら、若者が羨ましくなる。もっと攻めろ。という言葉を頂きました。たぶん事実です。けれど、結局人はポジショントークしかできないわけで、言語化できないということはつまり、理性的な理解に支障をきたしているということです。従って、50代超えた人間の含蓄ある言葉は他人事以上でなく、あくまでそこに感動した自分が何を考えるか、というレベルにとどまります。感化されて同じ想いに浸れるほど、感情は伝播しません。感情は冷酷なほど共有できない代物です。

ところで、そんな貴重な人生、やり残すことは少ない方がいい。せめて妄想の中だけでも達成感を味わおう。そんな企てにより、毎日8つのブログを更新しつつ、2本の動画をアップロードし、隔月で1本の小説を書き上げている、と嘘を吐いたとします。視聴者の中には、真に受ける人もいるでしょう。それはつまり、ある人の中では、筆者は人生を謳歌(たくさんの創造的な活動をしている)している人物だと認識されうるわけであり、そうでない筆者と共存する瞬間が生まれる。ただの嘘でも、主観的には真実に限りなく近い状態。その錯誤が、実際の筆者の効用すら変えてしまう可能性がある。自尊心を騙すことができれば、その時点で効果がある。人生はたった一度で残り時間はわずか、という感覚も、錯覚に変えることができるのだろうか。

 

ホラー会3

今日の映画紹介は真打。シリーズ複数まとめてご紹介。

リング

リング

 

面白さ 9/10

怖さ  7/10

 

感想

 

傑作。原作の小説、「リング」「らせん」「ループ」については未読の状態で視聴しましたが、絶妙な間の取り方、情報を小出しにして不安を煽るカット、俳優陣の真剣な表情が光ります。貞子が出てきてしまうまでの緊張感が最高ですね。都市伝説への好奇心が実体験に変わってしまうことへの恐怖、それが自らの息子に伝播してしまった悍ましさ、ジャパニーズホラーに求める理不尽で心霊的な演出が随所に詰め込まれている。古い作品ながら、ちゃんとホラーで、ちゃんとエンタメでした。意味不明で原作への冒涜のような続編を作るなら、是非原点回帰のリメイクを作ってほしい、そう切に願う。

あと、原作を読んでから思いましたが、映画がホラー路線を強調しているのは英断だったかと(結果論ですが)。三部作のラスト「ループ」の映像化を望む声も未だ根強いよいですが、無理に軌道修正した「らせん」が大衆支持を得られなかったのは妥当ですし、ただでさえ映像化することで多くのイメージを破壊するのに興行収入も狙いにくい「ループ」を制作する余力があるなら、やはりリメイク版リングを————。

らせん

らせん

 

面白さ 5/10

怖さ  2/10

 

ホラー映画ではないです。SF作品としてのリングシリーズ2作目。ある意味正統な続編なのですが、いかんせん、1作目の「リング」をホラーテイストで完成させているので、内容の難解度以上に、とっつきにくい作品になっています。2時間サスペンスとしてみると、稀にあるどっきりするシーンが良い刺激になりますし、登場人物の意味深な言動に、脳が喜ぶかも。増殖する貞子、遠い目をしている高山、これらから本筋を理解してくのは、なかなか難しいですよ。

 

リング2

リング2

 

面白さ 4/10

怖さ  4/10

 

ホラー作品としてのリング続編。「らせん」のような難解さはなく、映画「リング」を補完するような説明的作品。正直、人気作にあやかった2作目、という印象しかない。本作で新たに公開された情報は、ファンなら勿論知りたいことだろうけれど、シリーズの根幹に触れるようなものではなく、あくまで前作と関係する映画であることを印象づけるための撒き餌でしかない。しかしながら、びっくりするような描写はたまにあるうえ、本家の雰囲気を少し残しているのでつまらなくない。仮に単体ホラー映画なら、もう少し面白さはあったかもしれない。よくある和製ホラーの一作といった感じ。

 

 

リング0?バースデイー

リング0?バースデイー

 

面白さ 6/10

怖さ  3/10

 

原作の存在する続編その2。山村貞子という”人間”にスポットをあてた、ある種SS的なストーリー。今でこそ化け物的、あるいはアトラクション的扱いをされてしまう貞子を、”人間”として主人公に据えた本作は、良質なサスペンスであると同時に、切ないホラーでもある。仲間由紀恵さんが演じる、線の細い、けれどどこか不思議な力強さを持つ女性”山村貞子”が、ただただ愛おしく悲しく思える作品だった。しかし所々現れれる恐怖のメタファーとしての貞子はちゃんと怖くて、よい緊張感であった。本作を視聴いただければ、貞子3Dを観たくない、という気持ちが少し共有できるかもしれない。

 

貞子vs伽椰子

貞子vs伽椰子

 

 

面白さ 7/10

怖さ  5/10

 

この流れで紹介すると掌返しも甚だしいと思われるかもしれないネタ作品ですが、貞子シリーズだから、というよりも、監督が”白石晃士”だから観た、という言い訳をさせていただきます。白石監督の癖が丁度良い程度で出ている作品を求め、同監督の作品は大半視聴しているのです。本作は、結構いい加減で白石監督らしかったです。

まず、リングシリーズとして見てはいけない。ホラー映画とアクション映画の中間として観ると、実に飽きない、それでいてホラーシーンはちゃんと怖い(かなり下品で原始的な手法ですが、それも恐怖の一種に違いない)、よくできたエンタメ作品です。霊媒師が暴力的過ぎる点や、貞子と加耶子が安直すぎる点も、コミカルなネタ要素としてちゃんと成立していて、本作品の中では、それはそれでよいと思える範囲です。白石監督作品についてはこれからもいくつか紹介することになると思いますが、暴力描写と性描写、それにふざけた描写が持ち味でもあり、忌避する点でもある、難しい監督なのです。行き過ぎると不快になります。不快な作品の方が多いほどです。ホラー映画は特殊な世界観を舞台にしており上記の描写が比較的アクセントとして有効に効きやすいのですが、それでもなお、やりすぎ、と感じることが多い。そんな印象を持つ身としては、本作の塩梅は中々だと思う次第です。

 

 

点数はつけません。単独で評価する作品ではないので。

ホラー映画が苦手なので、こういう舞台裏を見て安心します。あと勉強になります。「リング」のメイキングは、結構見入った記憶があります。白石監督作品には、よくメイキング映像がついているので、結構楽しみにしています。それにしても、歴代色々な人が貞子を演じているわけですが、貞子はこうして増殖しているんですよね。

 

ホラー会2

今日もホラー映画の感想です。やはり趣味の話は展開しやすいので。

 

the EYE (アイ) デラックス版 [DVD]

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面白さ 5/10

怖さ  5/10

 

感想

 

結構王道たるホラー。どちらかというと、呪怨とかと発想が近い。突然登場する絵的な恐怖が緊張感を持続させるタイプ。見えてはいけないものが見えてしまう恐怖を描く作品だが、終盤は世界を救うSFみたいな作品になっていた。正直ホラー路線で攻めた方がまとまりがよかったのでは、と思う一方、映画としてクライマックスを設けたかったという制作の意図も一考の余地がある。本作の演出で好きなのが、電車の窓に映る霊の演出。決してけたたましく音を鳴らしたりズームしたりするような下品な演出ではなくて、「見えてしまった」という感じを上手に表現しているさりげなさが好印象。強いて言えば、作品としてお悍ましさがなかったため、怖さも面白さも中くらいになっているが、「見えること」を、宿命的、ドラマ的に解釈するよう方向付けされた本作は、切なさを意識して作られていると思われるので、これも仕方ないと思う。趣味の世界。個人的にホラー映画に求めていない要素なのでこのような評価になったが、カット毎の演出は上手だし、面白い映画であることにも違いない、及第点の映画。

 

今更だが、批評家は嫌いです。他人が精魂と時間と金を投資して創った作品(映画であれ、小説であれ、理論であれ)を、科学的な分析を経ずに感情論で偉そうに、それも対等でない立場から一方的に指摘する様は、得心が行かない。人は毎日どこかで何かを批評しているもので、それは人間に感情がある以上否定するような行為ではないのだけれど、公正でない立場から公表することに、不正義を感じる。本部を書いて再確認した。何が「及第点の映画」だと。しかしこれからも続けると思う。楽だし。この感想文を真に受ける閲覧者もいないから。こうした行為決定の背景には、嫌いなことをする以上に好きなことがあるはずで、人が合理的な存在であるなら、効用の高い選択肢を選んでいるはずなのだ。従って、この感想文を書き連ねることは、人の合理性に対する生理学的証明に他ならない。